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東京地方裁判所 平成6年(ワ)6188号 判決

原告

阪下順子

ほか二名

被告

青柳幸男

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告阪下順子に対し金七二三万六〇三三円、同阪下光正及び同阪下登紀子に対し各金二三万円、並びにこれらに対する平成五年六月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを六分し、その一を被告らの、その余を原告らの各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの請求

一  被告らは、各自、原告阪下順子に対し金四五八三万円七五八〇円、同阪下光正及び同阪下登紀子に対し各金一一〇万円、及びこれらに対する平成五年六月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用の被告らの負担及び仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、信号により交通整理の行われる交差点内において、自転車に乗つて横断中の女性が大型貨物自動車に衝突され、片足切断等の障害を負つたことから、被害者及びその父母が損害賠償を求めた事案である。

二  争いのない事実

1  本件交通事故の発生

事故の日時 平成五年六月二九日午後五時五〇分ころ

事故の場所 東京都江戸川区西葛西七丁目二番地先交差点(別紙現場見取図参照。以下、同交差点のことを「本件交差点」といい、同図面のことを「別紙図面」という。)

加害者 被告青柳幸男(以下「被告青柳」という。加害車両を運転)

加害車両 大型貨物自動車(足立一一ゆ九三〇〇)

被害者 原告阪下順子(以下「原告順子」という。)

事故の態様 原告順子が、地下鉄東西線西葛西駅方面から江戸川球場方面に向け、本件交差点を進行中に、左側の環状七号線方面から本件交差点に進行した加害車両と衝突した。事故の詳細については、争いがある。

2  責任原因

被告青柳は、加害車両を運転し、被告有限会社大勇興業は、加害車両を所有し、これを自己のための運行の用に供していた。

3  損害の填補(一部)

原告順子は、自賠責保険から一四一八万三〇〇〇円の填補を受けた。

三  本件の争点

1  本件事故の態様

(一) 被告ら

被告青柳は、対面赤信号に従つて本件交差点手前で停車し、対面信号が青になるのを確認した後に直進したところ、原告順子が赤信号を無視して加害車両の右側から本件交差点の中央付近に向かつて自転車で進入した結果、本件事故が発生したものである。特に、本件では、加害車両の右側車線に右折車があり、同車も対面青信号に従つて右折のため本件交差点中央まで進行を開始しており、被告青柳からは同原告の姿は同右折車の陰になつて見ることができなかつた上、同原告は同右折車の前を進行したのであり、信号を無視した同原告の一方的な過失によるもので、免責を主張する。

仮に、同被告に何らかの過失があるとしても、同原告の右過失により大幅な過失相殺を主張する。

(二) 原告ら

原告順子は対面車両用信号機の青色信号に従つて本件交差点の横断歩道上を自転車により進行したところ、被告青柳は、加害車両の対面信号が赤であるにもかかわらず、横断者がいないものと軽信して見込発進をした結果、本件事故が発生した。仮に、同被告が見込発進をしていなくても、加害車両を停止線より三・四メートル前方の位置に停車させたのであり、衝突の危険が大きくなつたことから信号残りの通行者のため左右の安全を十分確認すべきところ、これを怠つたから、同被告に過失がある。

2  損害額

(一) 原告ら

原告順子は、本件事故の結果、全身打撲、骨盤骨折、左脛腓骨開放性骨折等の傷害を受け、松江病院や日本医科大学付属病院等で入通院治療を受けたが、左下肢を膝関節以上で失うとの後遺障害等級別四級五号の後遺障害を残し(症状固定日は平成五年一一月一二日)、このため、次の損害が生じた。

(1) 治療関係費

〈1〉 治療費 一八一万九四四〇円

〈2〉 入院雑費(一日一三〇〇円として一九七日分) 二五万六一〇〇円

〈3〉 付添看護料 二四万七五五〇円

〈4〉 通院交通費、宿泊費 三六万二三四九円

〈5〉 装具、器具購入費 三七万二五三七円

(2) 休業損害 二一一万五八七六円

原告順子は、本件事故当時専門学校に通学する傍ら、レンタルビデオ店でアルバイトをして毎月平均一〇万〇七五六円を得ており、同学校を卒業する平成七年三月までこれを継続する予定であつたが、本件事故によりこれを止めざるをえなかつた。平成五年七月一日から平成七年三月までの二一月分を請求。

(3) 逸失利益 五六六八万六二五三円

原告順子は、本件事故による後遺障害の結果労働能力が九二パーセント喪失したところ、本件事故がなければ、平成七年三月に専門学校を卒業し四月から就職することが確実であつたから、女子・短大・専門学校卒業の賃金センサスによる年間三四二万六七〇〇円を基礎とし、ライプニツツ方式により算定。

(4) 慰謝料 二〇八三万〇〇〇〇円

〈1〉 原告順子分

原告順子の入通院(傷害)慰謝料として二八三万円、後遺症慰謝料として一六〇〇万円

〈2〉 その余の原告分

原告阪下光正は原告順子の父、原告阪下登紀子(以下「原告登紀子」という。)は原告順子の母であるところ、いずれも、原告順子が本件事故により左足を失つたことに対して精神的苦痛を受けた。これを慰謝するにはそれぞれ一〇〇万円を下らない。

(5) 弁護士費用 六八〇万〇〇〇〇円

内訳 原告順子分六六〇万円、その余の原告分各一〇万円

原告順子は、同原告分の合計金額から前記填補額一四一八万三〇〇〇円を控除した七三一〇万七一〇五円のうち四五八三万七五八〇円を、その余の原告らは、同原告ら分各一一〇万円を請求する。

(二) 被告ら

原告主張の損害を争う。

特に、逸失利益については、原告順子は自動車を運転することが可能であり、また、事務職に就くことも可能であつて、労働能力を三〇パーセント程度減少したに過ぎない。また、女子、高卒の賃金センサスを基準とすべきである。

第三争点に対する判断

一  本件事故の態様について

1  甲一、二の1ないし14、乙一の1ないし9、二の1ないし19、証人小河和文、原告順子、原告登紀子、被告青柳各本人に前示争いのない事実を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 本件交差点は、環状七号線方面から船堀街道方面に向かう片側四車線の道路(以下、「甲道路」という。)と、地下鉄東西線西葛西駅方面から左近川方面に向かう片側一車線の道路(ただし、西葛西駅方面から左近川方面に向かう車線は、本件交差点手前までは、片側二車線となつている。以下この道路のことを「乙道路」という。)が交差する、信号により交通整理のされている交差点である。甲道路の中央にはグリーンベルトによる分離帯が設けられており、また、第四車線は、いずれの方向からも右折専用車線となつている。

本件交差点の四方には、別紙図面のとおり、いずれも横断歩道が設けられているが、甲道路の環状七号線側を交差する横断歩道(以下「本件横断歩道」という。)は、前記グリーンベルトを跨ぐことなるため、横断歩道部分のグリーンベルトが途切れていて、コンクリートがやや盛り上がつて敷かれ、通行が可能の状態となつている。グリーンベルトは、横断歩道により途切れた後、本件交差点内に、二ないし三メートル突き出ており、先端が丸くなつている。

甲道路は、片側の車線の合計は一三メートル、グリーンベルトの幅は二メートルあり、本件横断歩道の西葛西駅方面寄りの端からグリーンベルトを越えた側の第四車線と第三車線の区分線までは一八・二メートルある。また、乙道路から本件交差点に進入するための車両用の対面信号は、青信号四〇秒、黄信号三秒、全赤信号二秒、赤信号四五秒のサイクルとなつている。

(2) 被告青柳は、環状七号線方面から船堀街道方面に向かうため、甲道路の第三車線を走行していたが、本件交差点の対面赤信号に従つて、加害車両の先端部を二輪車用停止線の手前ではあるが四輪車用停止線から三・四メートルはみ出して、別紙図面〈1〉の地点で停車した。その後、右折専用車線には、コンクリートミキサー車が、四輪車用停止線から加害車両と同程度以上はみ出して、別紙図面Aの地点で停車し、いずれの車両も、対面信号が青に変わつた後に進行した。

原告順子は、西葛西駅から、別紙図面右下のローソン西葛西店に隣接しているアルバイト先のレンタルビデオ店に向かうため、自転車に乗つて、路地伝いに走行し、途中で乙道路に到達してから、左近川方面に向かつて乙道路の左側歩道上を走行し、本件交差点に到達した。

(3) 原告順子は、本件交差点に進入後、コンクリートミキサー車の前方を走行し、さらに加害車両の前方を走行したところ、加害車両の前部と衝突した。衝突現場は、別紙図面〈×〉の地点であり、本件横断歩道から一四・三メートル本件交差点に入つたところである。

被告青柳は、対面信号が青に変わつた後に、左右の安全を確認して本件交差点に進入しようとしたが、右側にはコンクリートミキサー車が既に右折のため進行を開始していて、その影になつて確認が困難であつた。そして、本件交差点の中央部、別紙図面〈2〉の地点に来た時にコンクリートミキサー車の影から黒い物が出てきたと印象を受け、ブレーキを踏んだが、別紙図面〈×〉の地点で同原告と衝突したのである。

コンクリートミキサー車の運転手は、警察の事情聴取の際、右折を開始してからその左前を人影が通り過ぎたと供述している。

以上の事実が認められ、これに反する証拠はない。

2  原告順子は、本人尋問において、「本件交差点の西葛西駅方面寄りの乙道路を跨ぐ横断歩道の延長線と乙道路歩道を交わる地点(別紙図面「あ」の地点)付近で対面の車両用信号が青色であるのを確認して、本件横断歩道に進入した。アルバイト先が、本件交差点を渡つてから、本件横断歩道よりも環状七号線方面寄りにあるため、交差点中央部を渡らず、本件横断歩道の部分に入つた。事故直前に緑色のものが視界に入つてきて、それを避けようとしたことは覚えているが、その他のことは記憶していない。」と供述する。

右供述のうち、本件横断歩道の部分に入つたとの点については、本件事故現場が本件横断歩道から一四・三メートル本件交差点に入つたところにあること、別紙図面「あ」の地点から対面の車両用信号を確認した上で本件交差点に進入するには、本件横断歩道よりも本件交差点の内側を進行するのが自然であること、本件横断歩道中央部にはコンクリートがやや盛り上がつて敷かれており、自転車の通行の場合は、本件交差点の内側を進行する方が路面の抵抗が少ないこと等からすると、直ちに採用するのは困難であり、むしろ、前認定のコンクリートミキサー車の運転手の供述も合わせて検討すると、同原告は本件交差点の中を進行したものと認めるのが相当である。

次に、別紙図面「あ」の地点付近で対面の車両用信号が青であるのを確認したとの点について検討すると、本件全証拠によるも同原告の自転車の速度は明らかではないが、同地点から甲道路中央分離帯までは少なくとも一五メートル(衝突地点までは少なくとも二〇メートル)あり、自転車の速度を被告らが主張する時速一〇キロメートルと仮定すると、甲道路中央分離帯までは五秒以上(衝突地点までは七秒以上)要することから、同原告が、対面信号機が青信号から黄色信号に変わる寸前に、これを見たものとすれば、加害車両が本件横断歩道から一四・三メートル進行したのに要する時間を考慮したとしても、前認定の事実と矛盾はなく、同原告の右供述は採用し得る。なお、同原告が本件交差点に進入した時点で対面の車両用信号が青色であつたのか、既に黄色となつていたのかは、本件全証拠によるも確定することができないが、仮に黄色となつていたとしても、信号の色が青から黄に変わつてから直後のことであつたと推認される。

3  そうすると、原告順子は、別紙図面「あ」の地点付近で対面の車両用信号が青色であるのを確認して本件交差点内をそのまま進行したが、甲道路の中央に至るまでに、全赤信号も終了し、甲道路の車両用信号が青色となつてしまい、対面青信号に従つて右折にかかつているコンクリートミキサー車の前を進行した後に加害車両と衝突したものと認めるのが相当である。

4  右認定事実によれば、被告青柳は、対面信号が青色に変わつてから加害車両を進行させたものの、いわゆる信号残りで(原告の本件交差点進入時に対面の車両信号が黄色であつても、前認定の事実からすれば、同じである。)本件交差点内を自転車に乗つて進行中の原告順子と衝突したものというべきである。なるほど、回被告にとつては、右側前方に右折にかかつているコンクリートミキサー車が存在し、その視界が妨げられ、同原告の発見が困難であることは否定することができないが、右折車は交差点の中程までしか進行せず、信号残りの車両が右折車の前方を横切ることはあり得るのであり、また、四輪車用停止線を越えて停止したのであるから、普段よりもさらに左右を注視すべき義務があり、同被告は、これを怠つたものといわざるを得ず、被告らの免責の主張は理由がない。

他方、原告順子も、別紙図面「あ」の地点付近で対面の車両用信号が青色であるのを確認して本件交差点内に進入したものであるが、その後の信号の状況を確認せす、かつ、既に左側から青信号に基づき車両が進行しているのであるから、甲道路の中央分離帯で停車するなりして危険を回避すべきであるのに、あえてその前方を突き切ろうとして自転車を進行させたのであり、その過失は重大なものとはいわざるを得ない。

そして、被告青柳の過失と原告順子の過失の双方を対比して勘案すると、本件事故で原告らの被つた損害については、その七割を過失相殺によつて減ずるのが相当である。

二  原告の損害額について

1  原告の障害の状況

甲三ないし八(枝番を含む。)、原告登紀子及び同順子各本人に前示争いのない事実を総合すれば、原告順子は、本件事故により全身打撲、出血性シヨツク、骨盤骨折、左脛腓骨開放性骨折、左下腿広範囲皮膚剥脱創、左膝窩動脈断裂、左内側側副膝靱帯断裂の傷害を受け、事故当日の平成五年六月二九日に松江病院で応急措置を受け、同日から日本医科大学付属病院に入院し、緊急手術等を受けたが、敗血症になつている可能性があること等から、七月二〇日に左足の膝下から切断したこと、その後、状態が悪く、同月二九日には大腿部の膝上から再度切断したこと、八月四日に亀有大同病院に転院して、切断した足の治療を行い、九月一日に同病院を退院したこと、九月三日からは兵庫県立西宮病院で入院治療を継続し、症状が固定した一一月一二日まで同病院で入院治療を受け、さらに年内は通院治療を受けた(実通院日数五日)こと、その後、平成六年一月一四日から三月一五日まで兵庫県立総合リハビリ病院に入院したこと、片足のため、段差のある家での生活は困難であること、記憶力が低下していること、自算会から、一下肢を膝関節以上で失つたとして後遺障害別等級表四級五号の後遺障害があると認定されたことが認められる。

2  治療費関係 二六四万八一八二円

(1) 甲五ないし八(枝番を含む。)によれば、前示松江病院の治療費として一万〇三三〇円、日本医科大学付属病院の治療費、文書費として一二二万〇〇二〇円、亀有大同病院の治療費として三四万一四三〇円、兵庫県立西宮病院の治療費、文書費として二四万七六六〇円の合計一八一万九四四〇円を要したことが認められる。

(2) 前認定の事実によれば、日本医科大学付属病院、亀有大同病院、兵庫県立西宮病院及び兵庫県立総合リハビリ病院における入院の雑費として、一日当たり一三〇〇円として合計一九七日の間に二五万六一〇〇円を要したものと認める。

(3) 甲九の1ないし8、原告登紀子本人によれば、原告順子は、亀有大同病院に入院中、同病院の指示により葛飾看護婦家政婦紹介所から専門の看護人の派遣を受け、派遣料として二〇万〇一〇五円を要したことが認められる。

(4) 原告登紀子、原告順子各本人によれば、原告順子の容体が重篤であつたため、その母である原告登紀子が日本医科大学付属病院からの指示に基づき病院に待機を命じられたため、その居住地である兵庫県西宮市から東京まで赴いたこと、原告順子は兵庫県立西宮病院への通院のため交通費を要したことが認められるが、これらに要した具体的な金額を知る証拠はない。したがつて、原告順子が請求する通院交通費、宿泊費の三六万二三四九円はそのまま認めることができないが、この点は、別途慰謝料で考慮することとする。

(5) 甲一〇の1ないし3によれば、原告順子は、義足等の装具、器具購入のため三七万二五三七円を要したことが認められる。

3  休業損害 一八七万五八七六円

甲一一の1ないし3、原告順子本人によれば、原告順子は、本件事故当時東京コミユニケーシヨンアート専門学校の音楽放送科に通学する傍ら、レンタルビデオ店でアルバイトをして毎月平均一〇万〇七五六円を得ていたこと、本件事故がなければ、同原告は、同学校を平成七年三月に卒業の見込みであつたこと、しかし、本件事故による後遺障害のため、右学校での授業を受けることが不可能のため、これを退学したこと、その後、放送大学の心理学科を専攻し、その傍ら、自動車の運転が可能であることから原告登紀子の家業である八百屋の仕事を手伝つて同原告から毎月二万円のアルバイト代を得ていることが認められる。そして、前認定の原告順子の入通院状況からすれば、少なくとも兵庫県立総合リハビリ病院を退院した月である平成六年三月までは右アルバイトの就労が不可能であつたことは明らかである。

右認定事実によれば、原告順子は、本件事故のため、平成五年七月から平成六年三月までは、毎月一〇万〇七五六円のアルバイト収入を得ることができなかつたことは明らかである。そして、後記認定のとおり、原告順子には、専門学校卒業を前提とした逸失利益を認めるのが相当であることにも鑑み、症状が固定した平成五年一一月一二日以降についても休業損害を認めるのが相当であり、このようなことから、平成六年四月から同学校を卒業する平成七年三月までの一年間についても休業損害を算定することとするが、原告登紀子の家業を手伝うことにより毎月二万円のアルバイト代を得ていることから、同期間については、同金額を控除した毎月八万〇七五六円を基礎にこれを認めることとする。

そうすると、原告順子の休業損害は、次の計算どおり、一八七万五八七六円となる。

10万0756×9+8万0756×12=187万5876

4  逸失利益 四七五〇万六〇五五円

前認定の各事実によれば、原告順子は、本件事故により左下肢を大腿部の膝上から失なうとの後遺障害別等級表四級五号の後遺障害等を残したのである。もつとも、同原告は、自動車の運転ができて、家業の手伝い程度の就労が可能であり、また、放送大学の授業を受けているのであつて、同等級表による九二パーセントの労働能力が喪失したと認めるのは困難である。しかしながら、これらの点は同原告の努力によるところが大きいものと推認され、これを過大評価して労働能力喪失割合を下げるのは適当でないこと等も考慮すると、同原告は、右後遺障害の結果労働能力が八五パーセント喪失したものと認めるのが相当である。そして、同原告は、本件事故当時専門学校に通学していたのであつて、本件事故がなければ、同学校を平成七年三月に卒業し、四月から就職することは確実であつたということができ、症状固定日が平成五年一一月一二日であることも考慮すると、平成五年度の女子、短大・専門学校卒業の賃金センサスによる年間三四二万六七〇〇円を基礎とし、ライプニツツ係数を一六・三一〇(一八・一六九から一・八五九を控除した数)として計算するのが適当であり、本件事故による同原告の逸失利益は、次の計算どおり、四七五〇万六〇五五円となる。

342万6700×0.85×16.310=4750万6055

5  慰謝料

(1) 原告順子分 一七二〇万円

前示の症状固定までの入院の日数、治療の経過、特に左足を二度にわたつて切断をしたこと、家族の駆けつけ費用や通院費用を的確な証拠がないとして独立の損害としては認容しなかつたこと、後遺障害の程度、内容、その他本件に顕れた諸般の事情を斟酌すると、原告順子の入院(傷害)慰謝料として二七〇万円を、また、後遺症慰謝料として一四五〇万円を認めるのが相当である。

(2) その余の原告分 各七〇万円

原告登紀子本人に弁論の全趣旨を総合すると、原告阪下光正は原告順子の父、原告登紀子は原告順子の母であるところ、いずれも、原告順子が本件事故により重篤な傷害を受け、結果的に左足を失つたことに対して相当の精神的苦痛を受けたことが認められ、これを慰謝するにはそれぞれ七〇万円が相当であると認める。

6  以上合計は、原告順子について六九二三万〇一一三円、その余の原告につき各七〇万円となるところ、前示過失相殺後の原告順子の損害額は二〇七六万九〇三三円、その余の原告のそれは各二一万円となる。

三  損害の填補

原告順子が自賠責保険から合計一四一八万三〇〇〇円の填補を受けたことが当事者に争いがないから、右填補後の同原告の損害額は、六五八万六〇三三円となる。

四  弁護士費用

本件の事案の内容、審理経過及び認容額等の諸事情に鑑み、原告の本件訴訟追行に要した弁護士費用は、原告順子につき金六五万円、その余の原告ら各人につきいずれも二万円をもつて相当と認める。

第四結論

以上の次第であるから、原告らの本件請求は、被告ら各自に対し、原告順子につき七二三万六〇三三円、その余の原告ら各人につきいずれも二三万円、及びこれらに対する本件事故の日である平成五年六月二九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がないからいずれも棄却すべきである。

(裁判官 南敏文)

現場見取り図

〈省略〉

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